こんにちは。かぐら税理士法人の能上です。
「経理の経験はないけれど、記帳くらいは自分でできるはず。今は便利な会計ソフトもあるし。」そう考えて自分で記帳を始めた経営者の方は、多くいらっしゃると思います。
しかし、実際に始めてみると、月末のたびに数時間を取られ、領収書はたまり、仕訳にも迷います。「これで合っているのだろうか」という不安を抱えたまま記帳を続けている方も、多いのではないでしょうか。
この記事では、記帳を自分でやるか、税理士に任せるかを迷っている方に向けて、判断の材料をお伝えします。
「できるかどうか」ではなく「やるべきかどうか」
まずお伝えしたいのは、視点の置き方です。
記帳は、時間をかければ多くの方が「できる」ようになります。問題は、それを経営者自身が「やるべきかどうか」です。
経営者の1時間は、営業に使えば売上を生み、商品やサービスの改善に使えば会社の力になります。一方、慣れない記帳に使う1時間は、何も生み出しません。仮に月10時間を記帳に充てているなら、その10時間で生み出せたはずの価値を、毎月手放していることになります。
記帳を外注する費用は目に見えます。しかし、自分で行うことのコストは目に見えません。多くの方が、見えない高い買い物をしていることに気づかないまま、記帳を続けています。
自己流の記帳に潜むリスク
時間の問題だけではありません。品質の問題もあります。
経理の経験がないまま自己流で記帳を続けると、間違いに気づかないまま月日が過ぎていきます。勘定科目の選び方、消費税の区分、経費にできるかどうかの判断など、迷う場面は次々に出てきます。会計ソフトは入力を楽にしてくれますが、入力した内容が正しいかどうかまでは教えてくれません。
間違いが積み重なったまま決算を迎えると、修正に余計な手間と費用がかかります。場合によっては、本来受けられたはずの控除を逃したり、税務調査の際に説明に苦労したりすることもあります。
「安く済ませたつもりが、かえって高くついた」。これは、記帳の自己流運用で実際に起こりがちなことです。
「できているつもり」の落とし穴 — よくある実例
「自分はちゃんとやれている」と感じている方ほど、注意が必要かもしれません。実際にご相談いただいた帳簿を拝見すると、ご本人は気づいていない誤りがよく見つかります。代表的な例を挙げます。
1. 消費税の区分の誤り
取引には消費税がかかるもの・かからないものがあり、税率も10%と8%が混在します。さらに、インボイス登録のない相手への支払いは控除の扱いが変わります。ソフトの初期設定のまま、すべて同じ区分で入力していると、消費税の申告額がずれてしまいます。
2. 取引先名や摘要欄の未記入
帳簿には「誰と」「どんな取引をしたか」を記載することが求められます。金額が合っていても、相手先や内容が空欄の帳簿は、後から見返しても取引を説明できません。税務調査の場面で、最も苦労するパターンのひとつです。
3. クレジットカード払いの二重計上
カードで支払ったときと口座から引き落とされたときの両方で、同じ支出を二度経費にしてしまう誤りは、自分で記帳している方に本当によく見られます。
4. 期ズレ(計上時期のずれ)
入金や支払いのタイミングだけで記帳していると、期をまたぐ売上や経費の計上時期がずれ、利益が正しく計算されません。決算で初めて発覚し、数字が大きく動くことがあります。
5. 会計ソフトの自動仕訳・推測機能の鵜呑み
最近のソフトは取引を自動で仕訳してくれますが、ソフトが読み取れるのは「どこで、いくら使ったか」までです。その取引の背景までは、読み取ってくれません。
たとえば、衣料品をひとつ買ったとします。それは現場で使う作業着でしょうか。得意先への贈答品でしょうか。それとも、本来自分で負担すべき私的な買い物を、誤って会社のカードで決済してしまったのでしょうか。同じ「衣料品の購入」でも、背景によって経理処理はまったく変わります。そして、その判断ができるのは、取引の事情を知っている人間だけです。便利な機能に頼って、思考停止のまま登録を続けると、誤った処理が静かに積み重なっていきます。
いずれも、悪気があって起こるものではありません。経理の経験がなければ気づきようがない、それだけのことです。ただ、気づかないまま積み重なると、決算や申告の数字に確実に影響します。
記帳は、「ただの入力作業」と思われることがあります。しかし、ここまでご覧いただいたとおり、実際には一つひとつの取引に判断が伴います。この支払いに消費税はどうかかるのか。経費にしてよいのか。どの時期に計上するのか。帳簿に何を書き残すべきか。記帳とは、このような判断の積み重ねです。
つまり、記帳を「正しく」行うことは、世間で思われているよりもずっと難しいと私は考えています。正しい知識と経験があって、初めて成立する仕事だからです。経験のないまま取り組むと、できていないことにすら気づけません。そこに、自己流の記帳の本当の怖さがあります。
外注は「手抜き」ではなく、経営判断
「自分の会社のことだから、自分でやるべきだ」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。その責任感は、経営者として立派なものだと思います。
実は、私自身にも身に覚えがあります。独立した当初、事務所のホームページをWordPressでゼロから自分で作りました。書籍を買い、作り方を学びながらの、手探りの作業でした。
完成したときの達成感はありましたし、いい経験にもなりました。ただ、いま振り返ると、あのとき費やした数十時間を営業に充てていればよかった、というのが正直なところです(独立当初は仕事がなく、HPを作成することで不安を解消していたのかもしれません。。)。不慣れなことを自分でやり切ることと、経営者として時間を正しく使うことは、別の話なのだと身をもって学びました。
不慣れなことを専門家に任せ、自分にしかできない仕事に集中することは、手抜きでも怠慢でもありません。限られた時間と力をどこに使うかという、まっとうな経営判断です。
製造や配送、ホームページ制作を外注するのと同じように、記帳も「専門家に任せたほうが速く、正確で、結果的に安い」業務のひとつだと感じています。
経営者がやるべきことは、記帳そのものではなく、記帳から生まれた数字を見て、次の一手を考えることだと、私は思います。
当事務所の記帳代行は、「作業代行」で終わりません
最後に、当事務所の記帳代行について少しだけお話しさせてください。
当事務所では、記帳代行を単なる作業の請負とは考えていません。記帳は、会社の数字を正確に「見える化」する入り口です。そこから毎月の試算表が生まれ、資金繰りの状況が見え、経営の対話が始まります。
記帳をお任せいただいた経営者の方には、数字をもとにした定期的な対話の場を大切にしています。「記帳から解放されて時間が戻ってきた」だけでなく、「自分の会社の数字が、初めてちゃんと分かるようになった」と感じていただくことが、当事務所の目指す記帳代行です。
記帳を任せるかどうか迷っている方は、まずは現状をお聞かせください。お話を伺ったうえで、外注したほうがよいのか、今のまま続けたほうがよいのか、率直にお伝えします。